パリでのHuman and Artificial Rationalitiesのカンファレンスの後、英国のプレストンでしばらく過ごした。ここには、ランカシャー大学 (大学のロゴは、ばら戦争で知られる、ランカスター家の赤バラ) があり、パリのカンファレンスでキーノート講演を行ったLinden Ball教授にホストになっていただいた。プレストンは、ランカシャー州の小さな田舎町で、マンチェスターやリバプールに近い。小さな街に大きな大学ということで、英国の典型的な大学街といえるかもしれない。物価が高い英国において、大学街は学生値段の安い食堂が多く、非常に助かった。
かつて英国の大学に多かった中国人留学生がほとんどいなくなっていたのが印象的だったが、その代わりムスリムの学生をよく見かけた。私は、当初、UAEなどのアラブの裕福になった国からの留学生なのかと思ったが、プレストン近郊にムスリムのコミュニティがあり、そこからの学生が多いということだった。ビザの取得のハードルが上がり、さらに留学生の学費は英国人学生の約2倍で、事実上裕福な留学生以外が締め出されている。日本と同じように大学の財政がひっ迫していて、いろんな戦略で試行錯誤しているようだ。ただし、心理学の実験室・実験器具は充実しており、アウトリーチの実験のための自動車まであった。また、スタッフも豊富で、認知心理学者だけでも数人 (なお、大阪公立大学は一人) いて、さまざまな共同研究を行っているようだ。ここ何年も日本からの国際的な研究論文数が減っていると指摘されているが、これではなかなか太刀打ちできない。
研究について以外で話題になるのは、地球温暖化による弊害である。毎年なら、9月は天気が悪いようだが、今年は英国にしては珍しく晴天の暖かい日が続いた (これは彼らにとってありがたいことのようだが、降雨と干天が極端になっており、干天の地域では地下水不足による地盤沈下が起きているらしい)。日本では、温暖化で一度に降る雨量がとてつもないことになっているが、英国でもその傾向があり、これまでの水害 (そもそも英国では水害が少なかったのだが) 対策では防ぐことができない洪水が時々起きているようだった。写真のアヴェナムパークは、リブル川のほとりに造られているが、2015年の豪雨による洪水で、低地はほとんど水没してしまった。その後、川の堤防が高くなったが、そもそもかつてならそんなに高い堤防は必要なかったらしい。なお、この公園は、南北戦争のときに米国から一時的に綿花が輸入されなくなって生じた「綿花飢饉」で、そのときに生まれた大量の失業者によって建設された。失業者は、市からクーポンをもらって労働に従事したらしい。産業革命は、この地に大きな利益をもたらしたのかもしれないが、さまざまな混乱も引き起こしている。
また、10月9日の学部のセミナーで、研究発表をさせていただいたが、これはパリのカンファレンスで発表したものを長くしたもので、さまざまな刺激的な質問コメントをいただいた (この研究は、やっと論文を書き始めたばかりなので、ここでは詳細は控えさせていただきたい)。訪問前は、「何もない街」と言われていたが、古い建物 (たとえば、古代ギリシャの神殿建築を模範としたネオクラシックスタイルのThe
Harrisと呼ばれる博物館やネオゴシックスタイルの教会など) も多く、私の滞在を十二分に楽しませてくれた。

