2026年9月13日日曜日

アルルの牛鬼?―海や川で生計をたてる人々の恐怖の象徴

  来週のパリでの学会 (Human and Artificial Rationalities) に出席する前にアルルに滞在している。こじんまりしたローマ史跡とアートの街で、非常に心地よく滞在することができる。ゴッホもこの街を愛したようで、彼が「ここを描いた」という表示が至る所にある。

先日アルラタン博物館で、奇妙なものを見つけた。見た瞬間に、私は直感的に宇和島の牛鬼を連想したのだが、フランスでタラスク (Tarasque) と呼ばれている怪物である。私の直感が正しいのかどうかは自信はないが、調べてみる、タラスクと牛鬼には随分と共通点がある。どちらも、水と生きる人々が抱いた恐怖の象徴で、タラスクは、氾濫する大河 (ローヌ川) と水運の脅威、牛鬼は、沿岸部の海難・津波への恐れが表現されている。タラスクが「船を覆し、水夫を食らう」とされる伝承は、水運で生計を立てる人々にとっての「制御不能な濁流や水難事故への恐怖」が妖怪化・竜神化したものと捉えられ、牛鬼は「海から出現する」「浜辺で人を襲う」といった海神・海難の妖怪としての側面を強く持ち、荒れ狂う海、巨大な波や津波、あるいは未知の海洋生物に対する「海で生きる漁師たちの畏怖の念」が牛鬼の形をとったと考えられる。

さらに興味深い共通点は、どちらも、妖獣から、地域の守護に変遷して、祭礼において練り歩きをされていることである。タラスクは、聖マルタによって鎮圧されて、その後地域の悪霊を払ってくれる聖獣となり、牛鬼も、特に鎮圧の伝説はないが、やはり聖獣となって宇和島牛鬼祭りで練り歩きされている。

これだけの類似性があるにもかかわらず、特に、一方から他方への文化的伝播があったという歴史はない。異なる地域で自然発生的に生まれた象徴と考えられている。水と共に生きる人々が、予測や制御することができない自然災害や事故という絶え間ない恐怖を克服し、共同体の平穏を願う中で生み出した知恵の形が、この二つの妖獣といえるのかもしれない。文化人類学的な人類の普遍的象徴が、遠く離れた、同じような生活条件において生まれたものといえるだろう。


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