2024年7月7日日曜日

10th International Conference on Thinking (3)―西洋人の無神論・日本人の無宗教

  前回の投稿で、ミラノにおいて発表した私自身の、フランス人、英国人および日本人を比較した研究で、日本人の判断がより弁証法的だったことを述べたが、もう1つの大きな知見が、宗教的ビリーフの文化差である。宗教的ビリーフの文化差を見るだけならば、日英仏以外に、もっと多くの国々からデータ収集すべきだったかもしれないが、主目的が東洋人と西洋人の比較なので、宗教的ビリーフの文化差は副次的な知見である。

 これまでの多くの研究で用いられていた質問紙は、宗教的ビリーフを「信ずるか信じないか」という一元的に捉えたものや、UFOなどの超常的現象を信じやすいか否かという次元の一部とするものが多く、宗教的ビリーフの多次元性を記述したものがほとんどなかった。そこで私は、金児・渡部(2003)の、向宗教性、加護観念、応報観念という宗教の要素がうまく尺度化された質問紙から、英語版とフランス版を作成して調査に用いた。

 その結果、向宗教性と加護観念の尺度については文化差はほとんどなかったが、応報観念だけが日本人において強かった。つまり、日本人は、祟りや天国・地獄を、フランス人や英国人よりも信じやすいということである。東洋人は、概してカルマ () を信ずる傾向が強いと言われているので、この結果は、それらの知見と一致する。また、日本人は、公正世界観 (just-a-world) が強い、すなわち世界は公平にできており、悪いことをすればその報いがあると信じやすいと推定されているが、その知見とも一致する。

 しかし、それよりも驚いたのは、宗教を信じているかいないかの違いである。調査では、どんな宗教を信じているのかも質問している。各国とも、6070パーセントの人が何も信じていないと答えていて、フランス人も英国人も、信じていない人の応報観念は弱かった。しかし信じている人は、日本人と同じくらい応報観念が強かったのである (なお、フランス人と英国人を加えた理由は、カソリックのフランス人とプロテスタントの英国人の違いを見たかったのだが、その違いはほとんどなかった)。ところが日本人は、信じていない人の応報観念も強かったのである。3か国の差は、このように「信じていない人」の違いが現れた結果であった。

 私は、これを、西洋人の無神論と日本人の無宗教の違いの反映と解釈した (中村圭志氏の著作に『西洋人の無神論 日本人の無宗教』というタイトルのものがあり、違いを知るのに参考になる)。つまり、西洋人は、一神教的伝統から、神を拒否すれば応報観念も弱くなる。しかし、日本人は、宗教 (25パーセントが仏教と答えていた) を信じていない人でも、正月には初詣に行ったり、パワースポットやスピリチャルを信じていたりなど、強力に神を否定する無神論者はほとんどいないと判断できる。この背景には、仏教の多神教性が影響していると推定できる。

 日本人の無宗教性について、もう少し調べてみたいと思ったが、これは引退後の楽しみにしておこう。

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