2024年8月5日月曜日

10th International Conference on Thinking (4)―直感で宗教を信ずる東洋人?

 6月のミラノの国際学会で発表した宗教的ビリーフの比較文化研究のきっかけは、宗教的ビリーフと思考スタイルの関係について、西洋人を扱った研究と日本人を扱った研究に不一致があったからである。西洋人を扱った実験では、内省的システムを好んでいる人々ほど宗教的ビリーフは弱いことが示されている。一般に、内省的システムは、認知的なバイアスを抑制することが示されており、その一環として、宗教的ビリーフや疑似科学的ビリーフも抑制されると考えられる。ところが、北星学園大学の眞嶋良全先生の示したデータ (Majima, 2015 Applied Cognitive Psychology) によれば、日本人は、直感的システムと内省的システムの両方が宗教的ビリーフを促進している。

 この違いは何だろうかという疑問から、私たちのこの研究が始まっている。日本人、英国人、フランス人を参加者として行った調査の結果、日本人のデータは眞嶋先生の結果と部分的に一致し、英国人とフランス人のデータからは、内省的システムが宗教的ビリーフを抑制するということがわかった。つまりこの不一致は文化差なのである。

 認知の文化差というと、西洋人の分析的思考・東洋人の全体的思考という区分があり、その枠組みで説明できるかもしれないが、宗教特有の何かが要因としてありそうでもある。実は私個人としては、西洋人の結果よりも、日本人の結果のほうがピンとくる。つまり、直感に頼る人のほうが宗教的ビリーフは強いというのは、当然のように思われるのである。静まり返った神社の境内で、パワーを感じたり、何かに護られた感じがしたりするのは、おそらく直感によるものではないだろうか。

 一方で、西洋人のデータは、理性でもって迷信を抑え込むという西洋人の宗教的あるいは哲学的伝統を物語っているように思える。先日、ある大学で神学を専攻されている学生から伺った情報だが、キリスト教の源流ともいえるユダヤ教の聖典のタルムードの中に神の理解のための論理性が強調されている文言があるようだ。つまり、ユダヤ教や、その影響を受けたキリスト教の中に、神は直感ではなく論理的に理解されるべきという価値観が綿々と受け継がれているようなのである。理性に合致しないなら宗教でも抑制するというわけだ。

 この違いは、宗教の発展の中で起きたちょっとした違いによるものなのか、一神教と多神教の根本的な違いなのか、あるいは西洋人の分析的認知と東洋人の全体的認知という差異が反映されているのか、今のところはよくわからないが、この研究の一番大きな成果のように思える。

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