2003年7月、国際学会でちょうど私がシドニーに滞在しているときだった。朝、新聞を読んでいて、ハリー・キューウェルがリーズからリバプールに移籍という記事を見つけた。それで私は、学会に参加していた何人かのオーストラリア人に移籍の件を話したが、なんと誰もキューウェルの名前を知らなかった。逆に、なぜ日本人のあなたがキューウェルという人名を知っているのかと質問された。キューウェルはワールドクラスのサッカー選手だったが、当時オーストラリア人が誰も知らないという事実に非常に驚いた記憶がある。
私がキューウェルの名前を知ったのは、2002年に英国に1カ月滞在したときである。当時はリーズに所属し、プレミアリーグでも有数のテクニシャンで、オズの魔法使いというニックネームがあった。ホワイツという愛称があるリーズの白はマンチェスターユナイテッドの赤と対比されて、両者の試合は、白バラのヨークシャ家と赤バラのランカスター家の15世紀に起きたバラ戦争に喩えられていた。このリーズで、キューウェルは花形プレーヤーだったわけである。リーズはその後、財政的な問題でチャンピオンシップ(2部)からL1(3部)に落ち、4年前に一度プレミアリーグに返り咲いたものの、現在はチャンピオンシップにいる。キューウェルは、2003年にリバプールに移籍したというわけだ。
このキューウェルが、今シーズンから横浜マリノスの監督になった。しかし、輝かしいプレーヤー歴と比較して、指導者としてのキャリアはどうみても不安である。イングランドのサッカーは、プレミア、チャンピオン、L1、L2と4部まであるが、それ以下の数チームの監督歴しかなく、またそこでも決して好成績を残していない。いくらセルティックで現在の横浜マリノスのハイライン・ハイプレスのサッカーを確立したポステコグルーのもとでコーチをしていたとしても、それだけでマリノスのスタイルを発展的に継承できるだろうか。ハイライン・ハイプレスのサッカーは、誰にでもできるものではなく、ポステコグルーも、就任の2018年は決して好成績だったわけではない。当時は私も、面白いが危なっかしいサッカーをしているという印象をもった。今シーズンのマリノスは、最初は前任者たちの貯金で勝てるかもしれないが、不調に陥ったとき、プレーヤーの意思統一がチグハグになったときなど、それを立て直せずにずるずると成績低下していく可能性が高いのではないだろうか。
明日からJリーグの2024年シーズンが始まる。私が応援するのはもちろん京都サンガである。ハイプレスの京都スタイルサッカーの浸透と的確な補強で、今シーズンこそ残留争いから早めに抜け出せるのではないかと期待している。シーズン前予想を見ると、どこにおいても横浜マリノスはヴィッセル神戸と優勝争いをすると書かれているが、私は非常に懐疑的である。
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