2023年10月7日土曜日

パリでのカンファレンス(2)ー2nd International Conference on Human and Artificial Rationalities

  国際共同研究加速基金(B)によって、昨年もパリでHuman and Artificial Rationalitiesのカンファレンスに参加したが、このカンファレンスは、2回目と銘打って今年も行われた (2nd International Conference on Human and Artificial Rationalities)。なお、2024年には3回目も開催で、917-20日の日程で行われる予定である。本科研の海外拠点はツール大学で、そちらでは共同研究も進行中だが、今回の渡仏では、このカンファレンスのほうがプロジェクトに組み入られる形となって、主目的となった。2回目は4日間という日程で、参加者も随分と増えた。

 このカンファレンスは、テーマ題目にもあるように、合理性を人間側だけではなく人工側 (主としてコンピュータやロボット) からのアプローチにも注目している。とくに、ここ近年の深層学習を取り入れたチャットGPTに見られるAI側の発展には目を見張るものがあり、1980年代の認知心理学とAIの蜜月、すなわちAI側は認知心理学の知見を利用してより人間の柔軟さを取り入れたプログラムの開発を試み、認知心理学側はAIプログラムの成功・失敗から人間の認知において用いられる原理を模索するという両者の関係を再び夢見ているのかなと思ったが、このカンファレンスでは、AI側のそのような発表は少なかった。その代わり、現代における切実な問題として、AIとどのように付き合うのか、言い換えれば、どのようにAIやロボットを使用するのかあるいはそのお世話になるのかという発表や、使いやすいAIやロボットはどのようなものかという発表が多かった。

 私の発表は、Are humans moral creatures? A dual-process approach for natural experiments of history.というタイトルである。これは、これまで書籍『生きにくさはどこから来るのか』やAdapting Human Thinking and Moral Reasoning in Contemporary Societyにおいて書いてきたことを、二重過程理論における内省的システムが直感的システムをどのように制御するのかという問題を軸とし、歴史における自然実験を材料にして、「人間は道徳的な生き物なのか」という問いかけを行うものであった。「歴史における自然実験」では、一般に独立変数が設定されている場合が多い。たとえば、ある国において、特定の制度を取り入れた地域と取り入れなかった地域で、その後の発展 (これが従属変数になる) がどのように異なったのかを検討するような研究が代表的だろう。しかし私が用いたのは、大きな社会的変化 (従属変数) があった場合、どのような要因が独立変数となっているのかを、内省的システムの制御という視点から検討するという手法である。つまり、モラルが向上されたとする18世紀ヨーロッパの啓蒙の時代と人権の大きな高揚が見られる第二次世界大戦後を材料として、それを内省的システムの制御として内省的システムを機能させた独立変数を探り、小説の普及とそれを理解するマインドリーディングを内省的システムが制御させた結果であるとする結論が導かれた。“Are humans moral creatures? という問いかけに対する回答は、yesである。

 

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