NHK大河ドラマ『青天を衝け』では、江戸末期の天領の農民の生活がリアリティをもって描かれていて、役者もみな上手く、見応えがあるドラマになっている。とくに、栄一の父親を演じている小林薫は、『おんな城主』の龍潭寺の和尚と同じように、厳しさを秘めた慈父を演ずるのが本当に上手いと思う。井伊直弼が桜田門外で暗殺され、安藤信正が坂下門で襲われ、栄一たちがどのように幕末の動乱に巻き込まれていくのか、今後の展開を楽しみにしている。
それにしても、気になったまま結局解決しなかったのが脛当てである。第2回の放送だと記憶しているが、栄一たちが剣術の稽古をしているときに、確か脛当てをしていたと思う。また、脛を狙った剣の撃ちもあったと思う。私はそれで、この脛を撃つ剣は柳剛流なのではないかと推測した。実際、流祖の岡田惣右衛門奇良は武州蕨で生まれているので、栄一たちが柳剛流で稽古をしても不思議ではなかったからである。
ところが、何を調べても栄一の剣は神道無念流となっており、ドラマのエンディングでの解説でも、栄一が学んだ剣は神道無念流であると述べられていた。神道無念流では、脛当ては着けず、脛を撃つような技もない。そして、ドラマの中でも、いつのまにか剣術の稽古から脛当てが消えている。結局脛当てのことはわからないまま、モヤモヤだけが残ってしまった。
また、栄一の剣で、ちょっと気になったのは脇構えである。これまでのドラマの中で、立ち合いで時々見せていたが、北辰一刀流の道場破りの真田範之助と剣を交えた時にも、脇構えをとっていた。脇構えとは、右足を引き体を右斜めに向け刀を右脇に取り、剣先を後ろに下げた構え方で、面と突きががら空きになるので、現代の剣道の試合では脇構をとる剣士は全くいない。脇構えでは、剣を自分の身体で隠せるので、剣の長さを相手に悟られないようにできる。また、正面からの相手だけではなく、背後あるいは右側からの相手にも対応できるという長所がある。したがって、脇構えは完全に実戦向けであり、竹刀の長さが決められていて、背後から襲われる心配がない立ち合いでは、その有利さは完全に失われることになる。それにもかかわらず、一対一の稽古や立ち合いにおいて栄一がとる脇構えは何なのだろうか。実戦に近い幕末の剣術ではもっと用いられていたのだろうか。それとも栄一の得意技が脇構えからのものなのだろうか。またひとつモヤモヤが増えてしまった。