2020年5月28日木曜日

芸能人の政治的発言に期待することー“Save Hong Kong’s democracy”

 黒川検事の件で、コメディアンあるいは芸能人による政治的な発言の影響がクローズアップされた。彼らの政治的発言は是か非かという議論が巻き起こっているが、私は、この件については、結果よしで良かったのではないかと思う。また、彼らも一個人として、政治的意見を表明する自由は保証されるべきである。「勉強もしてないくせに」という批判もあるが、こういう批判は言論抑圧になる。(逆に、「専門家」と見なされると意見を抑制すべき場合もある。私は、心理学の大学教員という職業柄、他人の性格について軽々しく述べることは控えている)


 懸念が残るとすれば、やはり有名人としての彼らの影響力の大きさである。下らない発言をたしなめられて、「影響力がない」と自虐したつまらないコメディアンもいるが、彼らの発言は、ときには専門家よりも影響力がある。拙著『「生きにくさ」はどこから来るのか』でも述べたが、有名人の発言の影響は、人気歌手のカイリー・ミノーグの名前をとってカイリー効果として知られている。彼女は2005年に乳がんと診断されて手術を受けて回復したが、その後、がん撲滅の啓蒙活動を行った。その結果、彼女の影響で多くの若い女性が乳がん検査を受けた。つまり、乳がんのどんな専門家よりも影響力があったといえるわけである。広告コミュニケーションにおいて有名人が使われるのも、同様の効果を狙ってのものである。自動車の専門家が「この車はいい」というよりも、有名俳優が颯爽とその車でドライブするシーンのほうがはるかに効果的だ。

 この効果は、直感的な「ファスト」と、熟慮的な「スロー」を区分する二重過程理論に当てはめれば、前者になる。つまり直感的であると同時に、行動への推進力が強いのである。ただし、二重過程理論を当てはめれば、直感は規範的な合理性に欠ける点があるので、コメディアンや芸能人の政治的発言は、理性のコントロールから外れると怖いことになる。いったん勢いがつくと、ちょうど第二次世界大戦前の日本のように、「雰囲気」に押し流されてしまう。また、芸能人の場合は、どうやら上下関係がいろいろと煩わしそうで、単に芸能界に長くいただけという理由で「大御所」や「大物」と呼ばれる人たちから依頼されたりすると「断れない」という雰囲気があるようだ。これは怖い (この点を、指摘した女性タレントもいた。私があまり好きなタレントではなかったが、この見識には瞠目した)

 このような懸念もあるが、コメディアン・芸能人の政治的発言の小さくない影響力はうまく活用してほしい。とくに、国際的な影響を及ぼす独裁に対して、さまざまな国の有名人とともにおおきなうねりを作って反対してほしいと思う。本日2020528日、中国の全国人民代表大会は、香港に国家安全法制を導入する「決定」を採択した。私は、アグネス・チャンに香港問題に対すると発言をずっと期待していたが、当事者となるといろいろと難しいのだろう。また、日本において、香港問題などで習近平を批判すると、戦争責任を反省しない嫌中のネトウヨと思われるリスクもあるかもしれない。しかし、戦争責任の反省と独裁反対は別だ。今こそ、日本の有名人が世界の人々ともに、"Save Hong Kong's democracy"を発信してもらいたいものである。私はツイッターをしてないのでわからないが、おそらく#を文頭につけて。

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