その178年後、香港は、今度は台湾の人々にとっての悲劇のモデルとなった。それも、香港が中国に返還されたことによって生じたことで、何という歴史の皮肉だろうかと思う。2020年の台湾の総統選挙において、現職の与党・民主進歩党の蔡英文が再選を果たした。中国との関係強化を主張した国民党の韓国瑜に対する圧勝であった。この背景には、一国二制度(1997年に香港が英国から中国に返還された際、50年間は香港の自治と資本主義経済などが認められるという制度)を守らずに、香港の自由を締め付けてきた近年の習近平による施策がある。とくに「逃亡犯条例」改正案は、香港と中国本土との間で容疑者の引き渡しを可能とするものであり、そうなれば香港市民が中国当局の取り締まり対象になる可能性がある。それは一国二制度を根本から揺るがすものである。香港市民が完全撤廃を求めたのは当然で、さらに行政長官選や立法会選での普通選挙の実現のための激しいデモは周知の通りである。
中国政府は、1949年の分断以来の台湾での主権を主張し、台湾は最終的に中国と統一されなければならず、必要であれば武力行使を辞さないとしている。これによって、「今日のウイグルは明日の香港、今日の香港は明日の台湾」という危機感は、多くの台湾の人々に共有されている。中国に強硬な姿勢をとっている蔡総統は、勝利演説で、台湾を力ずくで奪還するといった脅しを放棄するよう中国側に求めている。「私はまた、中国当局が、民主主義的な台湾も、我々の民主主義に基づいて選出された政府も、脅迫や威嚇行為を認めないということを理解してくれると願っている」が彼女の言葉である。
香港は、今回は日本人に悲劇的なモデルとして認知されているだろうか。昨年某時事番組で、香港のデモがテーマになったとき、中国政府の圧力というその背景が議論されなかったのは異様だった。習近平、あるいは中国政府に対する大きな忖度が働いていたのだろうか。そして、最後にゲストがコメントを求められたときのある女性評論家の発言が「日本の若者はおとなしいわね」だった。日本と香港では民主主義への危機感が桁違いだと思うが、そういう認識はなかったのだろうか。それとも忖度にまみれた確信犯だったのだろうか。
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