この新型コロナウイルス蔓延状態の中で東京オリンピックを実施するのか。2021年の春先からの国民的課題だったが、現時点で、感染者数の増大という多くの国民が危惧していたことが起こりつつある。私自身は、オリンピックを実施した場合のさまざまな経済効果や感染者数増大による死者・医療崩壊など、そういったことを複数の視点からパラメータを当てはめてシミュレーションをした結果を国民に示したうえで、実施するかどうかを決めてほしかった。しかし、実施ありきが政府がもっていた当初からの結論のようであった。目的が、経済的な問題なのか、IOCへの忖度なのか、あるいは政治家の実績つくりなのか、結局わからないままである。
東京オリンピックを実施するのなら、感染対策をもっと厳しく行うべきである。入国の水際対策といいながらザルのような検疫を放置し、バブル方式と呼びながら、バブルははじけるは、バブル内で感染が広がるはで、なし崩し的にきまりが守られなくなっている。バブルに閉じ込められた選手から不満が出れば、それに対してきちんと説明をして説得をしなければならない。「不満があるから」と緩めていけば、ウイルスが広がるのは当然だ。せっかくワクチン接種が進む中、変異株が次々と国内に入ってくれば、元の木阿弥どころかもっとひどくなる可能性もある。
選手や彼らを取り巻く人々にも苦言を述べたい。プレー中の選手への、観客席からの選手団による声援は禁止されているはずではないのか。ある柔道選手への「○○」コールは見ていて見苦しかった。またパブリックビューイングをしないと言っておきながら、特定の選手のご当地の小学校や中学校での集まっての応援が普通に行われている。某水泳選手への絶叫しながらの応援は、いくらマスクをしていてもとても感染を防ぐことはできないだろうし、おそらくこういう光景が日本のいたるところで見られるのだろう。これらは、感染拡大を防ぐためにはしてはいけなかったことなのではなかったのだろうか。
この感染爆発で、多くの人々が苦境にあえぐことになる。私自身は経済的な影響は少ないが、親しい人が入院してもお見舞いに行けなかったし、大学での教育活動、研究活動、学会の開催に大きな支障が生じている。とくに、私がよく参加している学会は2年連続オンラインとなっており、おそらくその不利益を最も被るのは学会デビューした大学院生たちだろう。ウェブの学会では、他大学の研究者との交友関係を築くのは不可能に近い。このような交流は、5年後、10年後に実を結ぶものである。
この時点で判断できることは、後知恵かもしれないが、オリンピックは実施すべきではなかったということだ。これだけの感染者増とそれに伴うさまざまな不利益を考えれば、即刻中止が望ましい。正直、とても浮かれる気分にはならないし、たとえば、日本と対戦したサッカーのフランスチームのように、調整不足なのかミスだらけの試合を見せられても少しもおもしろくないし、勝っても喜ぶことはできない。感染の爆発的拡大、ベストとは程遠いパフォーマンス、テレビは不愉快な喧騒の嵐、商業オリンピックは真剣に見直す時期にきているのではないだろうか。とりあえず東京オリンピックは今からでも遅くはないので中止にしてほしい。