International Conference on Thinkingは、4年に1度の思考心理学の学会である。本来なら昨年にパリで行われるはずだったが、今年に延期となり、結局はオンラインでの学会となった。この学会は、毎年行われていたLondon Reasoning Workshopとともに私を研究者として育ててくれた学会で、知己の研究者が多いのだが、実際に会うことができずに本当に残念だった。また、パリ時間を中心として世界中から参加できるオンライン形式なので、日本は毎日夜の10時スタートとなった。そのため、たとえば、Steven Slomanなど、聞きたかったいくつかの基調講演に参加できなかったのが残念である。
近年の思考心理学の大きなテーマに、モラル推論や陰謀論がある。また政治的分断の説明に適用されている発表もあった。いずれも、人間の認知機構に直感的システムと熟慮的システムを仮定する二重過程理論の適用であると同時に、これらの材料によって、この理論そのものの発展が促されている。モラル推論研究は、非常に有名な「トロリー問題」に端を発したものが多く、功利論的推論が行われるのか義務論的推論が行われるのかが問われていた。概して、1人を救うよりも5名を救う方がよいとする功利論的推論は熟慮的システムによって、「人を殺しちゃダメ」という義務論的推論は直感的システムによって行われると想定されるが、例外も多く、それらをどのように扱うかなどが議論されていた。
妄想的思考(delusional thinking)研究の一環としての、陰謀論研究も散見された。代表的な妄想的思考に結論飛躍バイアスがある。一般に、結論を導くときにはいくつかの前提が精査されるものだが、これは、一つの、たとえば、ある女性がちらりとこちらを見たという前提から、彼女は自分を愛していると結論づけるような妄想的思考である。陰謀論もこの一種で、自分が固執する結論があり、その結論が導くことができるような陰謀をストーリーあるいはナラティヴとして構成されていくとその非合理性が説明される。
政治的分断もそのような固執が問題になっている。一般に、批判的・分析的思考ができれば、思考スタイルは科学的になる。そして、実際、批判的・分析的思考ができる人ほど、地球温暖化の主要因は二酸化炭素の排出によるものだと考えている
(おそらく、これは科学的にかなりの確率で正しい)。ところが、基調講演のGordon Pennycookによれば、トランプの強固な支持者たちにおいてのみ、批判的・分析的思考ができる人ほどそれを信じなくなるようだ。つまり、二重過程理論の熟慮的システムは、非科学性を修正するというよりは、自分の強固な信念を合理化するために使われたというわけである。これは、ちょうどJonathan Haidtの『社会はなぜ左と右にわかれるのか』の中で示されている、熟慮的システムが、ありえない確率のリスクを自分の直感的嫌悪を合理化するために指摘する例と似ている。D. ヒュームが言うように、まさに「理性は情念の奴隷」なわけである。このような思考傾向が政治的分断を招いている。
私自身も発表を行ったが、この内容は論文になったときにでも紹介したい。次回は、2024年にミラノで行われる。ぜひ行きたいものだと思っている。
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