そんな私でも、この世界的なコロナウイルス禍については、グローバル化の大きなマイナス面であり、少しは見直す必要もあるのかと思った。しかし、『サピエンス全史』の筆者であるユヴァル・ノア・ハラリによる、「この厄災もグローバル化によって解決」というメッセージには説得力がある。当然のことかもしれないが、産業だけではなく、グローバル化による科学・学術の発展は計り知れないものがある。情報科学の発展は誰の目にも明らかだが、そのテクノロジーによって、他の領域もその恩恵をかなり受けている。1990年代前半には、画像一つ見るにも数十秒要していたインターネットも、おそろしく高速になり、国境を越えて研究者間の情報共有が可能になった。情報伝達が大量かつ迅速になると、ある研究者のアイデアが別の研究者によって具体化され、それがさまざまな研究者に伝わるというように、発信・受信の相互ネットワークが緊密になり、それがイノベーションや研究の発展を加速してくれるのである。新型コロナウイルス禍によって、人的な移動などの物理的なグローバル化は一時的に停滞するが、情報のグローバル化は、現状況の解決をもたらしてくれると確実に期待できる。
私の大学もそうなのだが、前期の科目を遠隔授業にする大学が多い。それで、私もスカイプ以外にあまり利用してこなかったZoomなどのウェブ会議のシステムを利用し始めたのだが、これが便利である。授業の開始は5月からではあるが、すでに卒論演習と大学院演習で使用してみたのだが、悪くはない。いわゆる文科系で、このようなウェブ会議システムに無関心だった教員も、必死に使用法を学んでいる。今年は、海外においても国内においても学会が次々とキャンセルになっているが、これを使えば、かなりグローバルに意見・情報交換ができそうだ。ヨーロッパでペストが流行して、ニュートンのような自宅に逼塞している研究者たちから革新的なアイデアが生まれたというエピソードがあるが、新型コロナウイルス禍は、遠隔ウェブ会議革命をもたらし、遠隔地同士の研究のグローバル化を促進させたという事例として、50年後あるいは100年後に語り継がれるということになるかもしれない。
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