ラグビーワールドカップの日本対スコットランド戦で最低の視聴率を記録したNHK大河ドラマの「いだてん」だが、10月13日放映の「懐かしの満州」は見る価値があったと思う (私も、ワールドカップの試合はライブを見て、「いだてん」は録画しておいたものを見た)。ネット等で散見されるコメントには、「本筋と落語の話がつながった」という賛辞が多かったが、私が評価したいのは、上質な反戦ドラマとしてである。
これまでのストーリーでは、五・一五事件や二・二六事件の描写によって全体主義・軍国主義の足音が伝えられ、1936年のヒトラーによるベルリンオリンピックが、ユダヤ人通訳のヤーコプが閉会式の翌日に自殺したというショッキングな知らせで締めくくられ、同時に1940年の東京オリンピック開催決定の高揚感が伝わってきた。しかしオリンピックへの軍部の介入や日中戦争の激化で、開催返上ということになり、ついに太平洋戦争に至った。
オリンピックに出場したアスリートの戦死などがもっと描写されるかなとも思っていたが、ドラマでは、りく (杉咲花の再登場は嬉しかった) と結婚した、仲野太賀演ずる小松勝の戦死だけに絞られていた。学徒出陣し、戦死の可能性が極めて高いと思われていた南方戦線ではなく、満州への派遣となり、さらに戦争も終わって、私は悲劇があったとしてもシベリア抑留くらいかなと予想していた。しかし、勝は南進してきたソ連兵によって殺された。それも、走りたいという気持ちが高揚している中での戦死だった。戦後というこの期に及んでなぜ死ななければならなかったのかという残念さは、映画「ライフ・イズ・ビューティフル」を思い出させる。この映画では、イタリア北部のユダヤ人収容所に息子とともに収監されていた、どんな悲惨なときにも周囲を笑わせていた父親のグイドが、戦争が終わってナチスが撤退する最中に殺されてしまっている。
余談ながら、ソ連が攻めてくるという状況での満州の人々の「女は隠せ」という叫びにもリアリティがあった。「日本が中国でしたことの仕返しを受ける」という恐怖からのもののようで、実際に満州ではソ連兵による日本人の暴行・殺害がかなりあったようだ。私も祖母から似たような話を聞いている。日本が降伏した後、「若い男は逃げろ、若い女は隠せ」という警報が飛び交ったようなのだが、これまで日本が中国などで行ったことと同じことをアメリカ兵にされるとして怯えたようだった。南京事件等の実情はどうだったのかについてはいろいろと議論がある。しかし、少なくとも当時の日本人の間で「日本はかなりひどいことをした」ということが伝えられていたということから想像できる事実があっただろうということは、忘れてはならない。
0 件のコメント:
コメントを投稿