「西郷どん」が終わった。始まった当初は、感情の押し付けではないかなどの違和感もあった。しかし、制作側の「家族の視点から描く」という意図は十分に伝わったと思うし、大成功だったのではないだろうか。確かに視聴率という点では振るわなかったかもしれないが、大河の中では、概して幕末モノは視聴率が低い。背景が複雑すぎたり、大河ファンが期待する武者姿の合戦がなかったりと、いろいろとハンディがあるのだろう。
西田敏行の語りが実は息子の菊次郎だったというのは、なかなかうまい演出だが、確かに林真理子の原作も菊次郎が父を語るという形式になっているので、気の利いたいたずらだと思う。家族の視点は、黒木華の糸、二階堂ふみの愛加那が、全く異なる家族形態の中で、異なる視線から西郷を眺めていたという脚本・演出は興味深く楽しませてもらった。ただ、少女時代の糸と西郷の妻になってからの糸の連続性にちょっと違和感もあった。「芯の強さ」や「納得するまでは引かない」という印象は共通していたかもしれないが、あのお転婆がすっかり影を潜めたのはちょっと残念だった。
村田新八は1990年の「翔ぶが如く」で益岡徹が演じて以来、私のお気に入りの人物だが、堀井新太の新八はちょっと物足りなかった。このあたりは、脚本や演出との兼ね合いもあろうが、益岡さんが醸し出していた剽軽さに欠けるかなという印象である。また、洋行経験で世界を知ったという新八は、西郷軍に加わるかどうかでものすごく悩んだはずなのだが、それはドラマではあまり描かれていなかった。しかし、最期の城山で、フランスで習熟したアコーディオンを弾き、フロックコートを脱いだ彼の粋は表現できていたと思う。「ラ・マルセイエーズ」のシーンはおそらく忘れられないものになる。
司馬遼太郎の小説のほうの「翔ぶが如く」では、川路利良がかなり大きな位置を占めるが、1990年の大河では、演じた塩野谷正幸の印象は薄い(塩野谷さんは、今回は糸の父親役だった)。しかし今回は、川路を演ずる泉澤祐希がもう少し存在感を出してくれていた。ただ、どのような意志で大久保側につき、西郷軍に参加しなかったのかとか、ポリスの役目とか、もう少し語らせてくれたら良かったのにとも思う。
始まった当初は、私の中の最悪の大河である「江」のようなとんでもないものになるのではと恐れたが、十二分に見応えたがあった。「男が活躍して陰で女が支える」に陥りがちな西郷と大久保の物語を、地に足がついた生活者の視点で描いてくれていたと思う。
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