5月13日放映の、HNKスペシャル人類誕生の第2回目は、ネアンデルタール人の絶滅がテーマだった。このテーマは以前から興味があったが、ここ何年かかの考古学やDNA研究の驚くべき進歩から、新発見が次々に現れていると聞いていた。しかし残念ながら、専門家でもない私は、さすがにそのような論文の追跡は無理なので、こういうテレビ番組で紹介してもらえるとありがたい。
ネアンデルタールは、コミュニケーション能力が劣っており、ホモ・サピエンスとの適応競争に敗れたというのが定説だった。しかし、番組の中では、最近の研究では、どうやら高い知性ももっていて言語も使用していたということも推定されていると紹介されていた。これまでの、ネアンデルタール人の知性が劣っていたとされる説はかなり否定されていることになる。ネアンデルタールと比較して、唯一、ホモ・サピエンスが優れていた点は、集団の大きさであるらしい。一般に、集団が大きいと協力の規模も大きくなり、また道具のイノベーションも進む。3~5万年前は文化のビッグバンの時期でだが、集団規模が大きくなって、個人による工夫や発明が、次々と集団内で共有されるようになり、共有されるとさらにそれが改良されるという好循環を生むようになり、狩猟等の道具が劇的に改良されていったようだ。それによって、ホモ・サピエンスは、氷河時代末に起きたハインリッヒイベントと呼ばれるヨーロッパの寒冷期を乗り越えたが、ネアンデルタール人はできなかったというわけである。少なくとも、ネアンデルタール人の知性が低くて、ホモ・サピエンスとの戦いに敗れたという可能性は極めて低かったようである。
番組では、ホモ・サピエンスにおけるこの集団の巨大化について、このプログでも紹介したロビン・ダンバーが、宗教等の重要性を説いていた(2017年11月23日の記事「ダンバー数を超えて」)。たしかに、宗教等によるトランスは、大集団をまとめるのに役に立つ。しかし、それでは、大集団化させる宗教はなぜホモ・サピエンスだけに可能で、ネアンデルタールからは生まれなかったのだろうか。ネアンデルタールとホモ・サピエンスのこの大分岐を生み出した違いは、偶然によるちょっとした差なのだろうか。それとも、定説よりも知能が高いとされたネアンデルタールにも乗り越えることができなかった壁があったのだろうか。とくに、集団を形成する上で、「心の理論」は重要だが、ネアンデルタールの「心の理論」はどの程度だったのだろうか。これについては番組では全く触れられていなかった。「わからない」というのが現状なのかもしれない。
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