ボツワナは、世界の最貧国が集まるサハラ以南に位置し、南アフリカ、ナミビア、ジンバブエに囲まれたサバンナと砂漠の内陸国で、海洋や大河を利用した港もなく、1980年代からのエイズ被害も大きく、経済的に豊かになるには著しく不利な国である。第二次世界大戦後に英国から独立し、現在では、一人当たりのGDPがおよそ1万5千ドルと、周辺で最も国力がある南アフリカや、大きな経済成長を遂げている中国やタイよりも裕福なのである。
アセモグルとロビンソンは、国が豊かになるか貧しくなるかを決定する要因として、最も大きなものが「制度」であると主張している。すなわち、人々の中に社会を繁栄させる基本的インセンティヴを生み出す経済制度が浸透しているかどうかが重要なのだ。この浸透のためには、貧しく経済的知識に乏しい国においては、最初は権力を持ったリーダーが現れ、インフラを整えて産業を興すことが必要である。ちょうど明治期の日本がその典型であろう。しかし、ある程度豊かになると、それらの富が個々人に配分され、民主的なレジームの中で社会を繁栄させるインセンティヴが健全に作用することが、次の段階の豊かさにつながる。
映画『A United Kingdom』では、英国留学中に英国人女性と結婚したセレツェ・カーマがどのように人種差別あるいは人種間の偏見を乗り越えるかがテーマで、産業等についてはあまり触れられていなかった。しかし現実の歴史を紐解けば、カーマは産業の振興やインフラの整備について、かなり大きなリーダーシップを発揮している。その途上で世界最大級のダイアモンド鉱山が発見されたという幸運もあったかもしれないが、その利益でさらに産業を発展させ、かつ自分は独裁者にならずに民主的な制度を導入して、次の段階への豊かさを目指していた。「サハラ以南」という世界の貧困の代名詞のような地域において、部族間対立、差別と偏見、エイズ禍などさまざまな苦難があったにもかかわらずここまでの経済成長を遂げたことは、アフリカの奇跡とも呼べるものだろう。とくに、アパルトヘイトを堅持していた南アフリカからは、英国を通して相当な嫌がらせや圧力があったようだ。現代のボツワナの発展は、カーマと彼の周囲の人々、彼の後継者たちの想像を絶するような努力の賜物なのだろうと思う。最近は、野生動物の保護にも力を入れていると聞く。行ってみたい国の一つだ。
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