2024年10月14日月曜日

国際シンポジウムを振り返ってー改めて合理性について考えてみる

  92-3日に行われたThe International Symposium on Rationality: Theories and Implicationsは、国際共同研究強化(B)に支援を受けた単発の国際シンポジウムである。2件のキーノートと27件の発表があった。近年、合理性についての議論がさまざまな視点から行われ、認知心理学や社会心理学、哲学、工学等にまたがる学際的な領域の研究になってきている。また、学際的な理論としての発展が著しく、同時に、政治的分断やフェイクニュース・陰謀論などの非合理的な思考が世界的に問題視される中で、合理性についての議論は非常に重要になってきていると思う。

 2件のキーノートについては前回の記事で述べた通りである。27件の発表は、Rationality and irrationalityDual-processMorality and rationalityCultural rationality“、およびCooperationというセッションに分かれて行われた。Rationality and irrationality”では、合理性・非合理性に直接言及があるテーマの発表が集められていた。たとえば、日本学術振興会で招へいされた、Iqbal Navedの発表は、インドにおけるフェイクニュースや陰謀論についてのものだった。これらは、トランプ支持者たちの専売特許のように語られてきたが、どこにでもある現代の現象としてとらえることができるだろう。Dual-processは、二重過程理論について、あるいはこれに基づくテーマの発表であった。内省的なシステムが直感的なシステムを制御していくという二重過程理論のモデルは、心理学において合理性を議論するときに最も使用される枠組みである。Morality and rationalityでは、モラル推論についての発表が行われた。トロッコ問題のモラルジレンマが研究されるようになって、モラルも合理性の重要なテーマとなったが、このセッションでは、意図と責任・モラルの関係が議論された。Cultural rationalityには2つの視点ががある。1つは、所与の文化の中で人間がどのように合理的に振舞うのかという視点で、もう1つは、作られる文化自体が合理的かという視点である。比較文化研究から、モデリングツールのデザインまで興味深い研究が目白押しだった。

 さて、近年合理性研究から注目されているのが、Cooperationである。というのは、ヒトの脳あるいは認知アーキテクチャーは、集団を構成する社会的哺乳類として進化したヒト特有のものであると考えられており、集団内での適応という点で際立った機能を発揮しているからである。生存のための競争が集団間や集団内で行われた結果、知能や共感が進化し、モラルや信頼、「協同(cooperation)」が生まれたと考えられる。皮肉かもしれないが、「人間の思いやり」は争いの結果生まれたといえる。

 このシンポジウムは、すべて英語で行われた。そして特に院生をはじめとする若手の日本人・中国人研究者に英語口頭発表デビューをしてもらった。日本でこういう試みを行うと、「英語がうまくないくせに」などの陰口があるかもしれず、若手は英語の口頭発表をためらいがちになる。しかし、せっかくの面白い研究内容が日本語でしか発表されないとすると、海外の研究者にその声が届かない。これは大きな損失である。また、海外の研究者は日本人が英語が上手いか否かのテストをしに来ているのではなく、研究内容を知ろうとして日本に来たわけである。少々下手であっても臆する必要はない。若手研究者には、これで度胸をつけて、次につなげて欲しいと切に願う次第である。

 

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