2022年5月8日日曜日

「海洋時代」から「新大陸時代」へ?―2022年5月8日毎日新聞の記事から

  58日付の毎日新聞に、中国あるいは中国人民の心情的ロシア寄りである理由について、外交問題で中国政府のアドバイザー役も務めた研究者のインタビュー談話が掲載されている。ロシア寄りの大きな背景的理由が、「海洋時代」から「新大陸時代」が来るという歴史観が共有されているという主張が行われている。つまり、「海洋時代」とは、過去数百年の、西欧諸国の文化、経済、軍事的な影響力の中にある世界で、海を通じて他国を支配し、植民地化した時代というわけだ。しかし、彼によれば、もはや「海洋時代」は終わろうとしており、中国、ロシア、インドといった国が大陸を通じて連結を深める「新大陸時代」が到来するというわけだ。

 中国には、この「海洋時代」に大きく被害を受けたという被害者意識が強いのだろう。確かに、清朝末期は列強の食い物にされ、日中戦争では大きな被害を受けた。しかし、この被害者意識だけで自国を語っていては、「大陸時代」がいかに暗黒であったかという事実に目をふさぐことになる。中国とソビエト連邦あるいはロシアは、中央アジアの多くのシルクロード交易国を侵略し、自国の領土にしている。最後の遊牧帝国であるジュンガルも、18世紀半ばに清朝によって滅亡させられている。ソビエト連邦は、崩壊時に多くの共和国を独立させたが、中国は、東トルキスタン(ウイグル)とチベットを独立させないどころか、多くの漢人を入植させ、自国化している。これは、ソビエト連邦やロシアが行っている、元の住民を強制移住させたり収容所に送ったりして自国民を入植させるという方法と同じである。遊牧民は、農耕民の富を奪いに来る野蛮人なので文明化しなければならないという発想が「大陸時代」のバックボーンならば、「新」が付こうが「新大陸時代」などまっぴらである。もし、「新大陸時代」という用語を平和な共存の意味で使用したければ、少なくとも東トルキスタンとチベットの独立を認めるべきだろう。

 歴史的に、「海洋時代」の植民地支配は、植民地支配というよりは交易が目的である。交易が自国の思い通りにならなかったときに武力を使用し、その結果の植民地である。当初は、ポルトガルによるゴアやマカオ、英国の香港というように、植民地というよりは交易拠点を設けることが目的だった。それに対して中央アジアにおける交易地には、さまざまな国の奪い合いという歴史がある。いったん占領すれば、そこを奪い返されないように自国化するという傾向は、海洋国よりは強い。中央アジアの歴史はその結果なのだろうが、これを進路変更できるのは、少なくとも「新大陸時代」という発想ではないことは明らかである。

2 件のコメント:

  1. 言語化することの意味について、考えさせられました。言葉だけ一人歩きする危険が、言語化にはあるということに気づきました。ありがとうございました。

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  2. 田中先生、コメントありがとうございます。中央アジアの歴史は、複雑すぎて中高の歴史ではなかなか体系的に教わることはないですね。私の頭の中では、いまだに中央アジアは、喜多郎の音楽をバックにしたNHK特集の「シルクロード」のイメージのままです。

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