大阪市立大学で開催された理論心理学会第67回大会では、企画されたものとして、理事会企画シンポジウムのほか、準備委員会企画シンポジウムと基調講演が行われた。準備委員会企画シンポジウムは、菅村玄二先生と私が企画したもので、学際的研究が理論によって触発されるということを示すために、3名の話題提供の先生に、実行機能が理論として各領域での事象を説明するのに用いられていることをテーマにお話ししていただいた。実行機能とは、ワーキングメモリの下位システムの1つである中央実行系の働きとされ、情報の更新やルールのシフト、および自動的な出力の抑制が主たる機能とされている。
実際、実行機能は多くの領域で「理論」の役割を果たしている。知能心理学では、IQテストに反映される一般知能とは何かという問題が議論されてきたが、実行機能はその有力な候補である。思考心理学では、不良定義問題における計算の爆発に対する限界認知容量という概念が求められて来たが、実行機能はそれにフィットする。また、感情・欲求心理学や臨床心理学では、セルフコントロールが議論されているが、実行機能が大きな役割を果たしていることが提唱されている。神経基盤研究では、実行機能は前頭前野の局在が推定されている。さらに、哲学の重要な課題である「意識という難問」に対して、ワーキングメモリや実行機能は、何らかの視点を与えている。シンポジウムでは、関口理久子先生からはさまざまな行動パフォーマンスの予測理論として、川邉光一先生からは精神疾患モデル動物の行動を説明するための理論として、また、土田宣明先生からは加齢変化を説明するための理論として、実行機能が議論された。もちろん記憶研究者によって実行機能自体が説明対象ともなるが、このシンポジウムではその言及よりも、実行機能がどのようにグランドセオリー足りうるのかという点が追及されていた。
基調講演は、時差が7時間のイスラエルからインターネットのライブで、Rakafet Ackerman先生が、”Meta-Reasoning: How do people allocate their
thinking efforts?”というタイトルでお話しされた。人間が推理を行うときに、どのように心的努力を割り振るのかという判断が、推理のための推理ということでメタリーズニングと名前を付けられている。この働きを説明するために、二重過程理論では熟慮的システムのメタ部門である内省的なモニタシステムが想定されている。概してこの判断は、直感的で暫定的な解答への過剰確信によって歪められ、それ以上の熟慮的努力が注がれない結果となる。私自身は、この過剰確信にどういう意味での合理性があるのか個人的に知りたかったが、横道にそれてしまうからなのかこの点への追及はなかった。過剰確信は、おそらく実行のエネルギーになると同時に、周囲を説得・同調させるという点で適応的なのだろう。勝ち目がない戦いでも、メンバー全員が勝てると過剰確信していると、勝利する場合もある。
心理学の研究は、それぞれの領域での精緻的な実証と理論化は重要である。しかし、ある程度の成果が集まれば、どきどきは振り返ってその背景にあるグランドセオリーは何なのかを思索するのも楽しい。理論心理学会は、その楽しみを追求できる学会なのではないかと思う。
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