2018年3月16日金曜日

イングランドフットボール文化

 Jリーグが始まって25年、野球以外のプロスポーツ不毛だった日本で、この短期間のうちによくこれだけサッカーが盛んになったものだと思う。それでも、母国とされるイングランドと比較すると、やはりまだサッカーは文化として根付いていないという印象は強い。ここ、Wolverhamptonでも、大学の研究室には必ずWanderersグッズがあり、また、これまで訪問した別の大学の研究室でも、その地方のクラブチーム関係のものがあったりすることが多い。また、熱烈なアーセナルファンの某大学某教授の研究室は、アーセナル時計、アーセナルフラッグ、アーセナルカレンダー、アーセナルマスコットと、アーセナルで溢れかえっていた。一方、私の大学の近くにはC大阪のホームである長居のスタジアムがあり、院生にも何人か応援している人がいるが、院生室でC大阪グッズはあまり見かけない。私の研究室の前には、なぜかパナシナイコスのペナントがあるが、残念ながらC大阪ではない。ちなみに、私が応援しているのは京都サンガなのだが、あまりグッズは置いていない。

 イングランドの場合、各クラブチームは、それぞれの町や市の文化的伝統と結びついている。たとえば、マンチェスターユナイテッドの赤はランカスター家の赤バラ、リーズ(かつては強豪だったが、財務的な問題で今は2部リーグ)の白はヨークシャ家の白バラと、15世紀のバラ戦争以来の伝統がある(16年前にリオ・ファーディナンドがリーズからマンチェスターユナイテッドに移籍した時、リーズの少年が掲げていた「リオって誰だっけ?」と書かれたフラッグが印象に残っている)。ちょうど、Jリーグにおける、新潟と甲府の川中島決戦のようなものだが、Jリーグの場合はまだまだ根付いているとはいえない。

 文化的伝統は両刃の剣のようなもので、地域的な対立と結びついてかつてのフーリガンを生みやすい土壌も作っている。私が初めて北部のサンダーランドを訪れたとき、訪問先の教授から、近隣のライバルであるニューカッスルのユニフォームを着て絶対に街を歩くなと言われた。まあ、初めてサンダーランドを訪れた私がニューカッスルのユニフォームを持っている可能性は皆無なのだが、どちらもサッカーに熱い土地柄である。サンダーランドは、現在チャンピオンシップ(2部リーグ)の最下位で、おそらく来期は3部リーグだと思うが、人口30万人足らずの地方都市で、49,000人収容のスタジアムはいつも満杯になり、街ではユニフォームの人をよく見かけた。歴史的にサンダーランドは、北部にしては珍しいスコットランド長老派シンパで、内戦のときは議会派を支持したかなりラディカルな土壌のようだ。一方、ニューカッスルは保守的で議会派と対立した王党派が主流であった。こういう対立が残っていて、サポーターに感情的に共有されているというのは、ちょっと困ったことかもしれない。

 より困った問題は、英国の階級分化との結びつきだろう。英国では、アメリカほど黒人差別は強くないが、労働者階級に対する差別感は強い。そして、イングランドにおけるサッカーは、伝統的に、北部の炭鉱労働者や中部の産業革命以来の労働者の娯楽という面が強い。一方で、イートンなどの名門校では、盛んなのはサッカーではなくラグビーなのである。したがって、中産階級以上のラグビーと労働者階級のサッカーという住み分けはは、かなり強固である。英国の大学の教員は、中産階級以上の出身である人が多いが、彼らが子どものころサッカーに熱中すると、お母さんが渋い顔をしたという話もちょくちょく聞く。言い方を変えれば、サッカーには、労働者階級のエネルギーが溢れているともいえるのだが、こういう階層文化は、幸い、Jリーグに輸入されていない。今後Jリーグがどんな道を歩むのかわからないが、どのような文化を創り上げていくのか楽しみにしている。週末のサッカーの試合を楽しみに一週間過ごすという生活はシンプルで楽しい。ただし、そのためには、わが京都サンガにはもうちょっとがんばってもらわなければいけないが。

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