おそらく心理学者の中でもごく少数の人たちにしか知られていないのではないかと思うが、最近、新パラダイムという呼ばれる潮流が広がりつつある。これは、演繹推論における規範、すなわち何を正しい推論とするかという基準についての主張であり、命題論理学と述語論理学を規範としてきた伝統に対するチャレンジなのである。これについて、金子書房から2015年に出版された、『認知発達研究の理論と方法』の中で、私が「推論研究の新パラダイム」という章で概説をしているので、それをまとめてみよう。
前回の記事でも触れたが、新パラダイムは、条件文についての規範理論をめぐってメンタルモデル理論と対立している。メンタルモデル理論では、下の表の中の命題論理学を規範としており、「もしpならば、qである」という条件文の真偽の取り決めについて、pとqの真偽の組み合わせで、pが真でqが偽のときのみを条件文を偽とし、それ以外の場合を真としている。今は教えられていないようだが、私が高等学校で学んだことである。メンタルモデル理論でも、「もしpならば、qである」という条件文が真だとすれば、pもqも真である状況以外に、pが偽でqが真、pもqも偽という可能性があるということを理解することが規範とされている。
しかし、こうすると、「もしネコが爬虫類ならば、トンボは植物である」のような意味がわからない条件文が、pもqも偽だということで真になる。この命題論理学に異を唱えたのが、ド・フィネッティで、彼の理論では、表にあるように、qが偽である場合をカウントせず、「空」(void)という値が与えられている。人間がド・フィネッティの理論のように条件文を解釈するということを、新パラダイムでは、条件文の確率推論の研究で示している。円またはダイヤが描かれている、黄色または赤色のカードが、それぞれ以下の枚数あることを想定してほしい。
黄色の円:1枚
黄色のダイヤ:4枚
赤色の円:9枚
赤色のダイヤ:16枚
そこから任意の1枚を引いたとき、「もしカードが黄色ならば、そのカードには円が描かれている」という条件文が正しい確率はどうなるだろうか。命題論理学の取り決めに従えば、真であるカードは、黄色の円、赤色の円、赤色のダイヤであるので、(1+9+16)/30、つまり約87%になる。しかし、多くの人はカードが黄色の場合のみを考慮した確率、すなわち、1/(1+4)という解答が適切だと思われないだろうか。実際、後者のほうが多いのである。
メンタルモデル理論が、なぜこの命題論理学的解釈に固執するのかわからない。これを放棄しても、メンタルモデル理論がもつ本質的部分、すなわち、「意味論的手続きによってモデルを生成する」という仮定が反証されるわけではない。おそらく、この規範理論論争で敗れたとしても、まだまだ生き残っていくのではないだろうか。
p
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q
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p
→ q
命題論理学
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p → q
de
Finetti
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真
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真
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真
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真
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真
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偽
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偽
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偽
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偽
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真
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真
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空
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偽
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偽
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真
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空
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