2017年11月16日木曜日

「哺乳動物が人間に馴れる」とは?

 15年ほど前にジャレド・ダイアモンドの名著である『銃・病原菌・鉄』を読んだとき、印象に残っていることの一つに、ユーラシアには輸送や長距離移動に利用できるウマがいたが、アフリカにはそのような動物はおらず、たとえばシマウマは絶対に人間に馴れないという記述がある。彼の主張は、それがアフリカの停滞とユーラシアの発展をもたらした要因の一つということだが、その議論から外れて私が素朴に感じたことは、動物が人間に馴れる・馴れないというのは何が原因なのだろうかという疑問である。種としてDNA的に人間に近いとか、高度な知能 (「動物における高度な知能」という場合、基準が難しいが) をもっているとか、そういうことでもなく、また、同じゾウでも、インドゾウは人間に馴れるがアフリカゾウは凶暴で馴らすのが困難というように、種内においても変動があるということが不思議だった。

 この「人間に馴れる」という問題について、当時、ある動物学の方にお聞きしたところ、そんなことを研究している人はほとんどいないという回答だった。人間に慣れたイヌやネコは、あまりにも「人工的」なので、動物として研究する価値がないということらしい。しかし、この10年ほどの間に、動物学においても、ヒトと他の動物を比較する比較心理学においても、動物たちがどのように人間を認識するのかについての研究が徐々に行われているようである。

 概していえることは、あまりにも神経質だったり攻撃的だったり、また人間を恐れる哺乳類は人間には馴れない。しかし、馴れるか馴れないかには、種内の個体差も大きく、成育の中で人間とどのように接したかも大きく影響しているようである。また、大規模な自然実験が、67万年前に始まったホモ・サピエンスのアフリカから世界への拡散である。その拡散の中で、ユーラシアやオーストラリア、南北アメリカにおいて人間を恐れなかった大型哺乳類が次々と絶滅していった。アフリカにおいては、人類進化600万年の過程で、動物は人間を怖がるようになる進化を遂げていたかもしれないが、1万3千年くらい前に初めて人間が渡っていったアメリカ大陸では、大型哺乳類は人間を恐れなかったようである。この絶滅・激減には、気候変動が大きな要因だというのが従来の説で、ホモ・サピエンスの移住の影響がどの程度であったかはまだ明確ではない。しかし、人間を恐れなかったということは事実のようである。人間に馴れるインドゾウと馴れないアフリカゾウとの違いも、そのような人類との関わりの歴史の中から生じてきたようだ。

 イヌは約15千年前、ネコは約1万年前に家畜化されたようだが、比較的人間に馴れた個体、人間を恐れない個体を飼いならして繁殖させていったのだろう。なお、イヌ科のギンギツネについてのデータ (これは科学的な研究というより毛皮のための養殖という実用的な目的で行われたことの結果のようだが) によれば、おとなしい個体のみを繁殖させ続けてほぼ50(キツネの繁殖年齢はおよそ1年なので、50世代) で、凶暴な個体がいなくなるようである。

 イヌとネコでは人間をどのように認識しているかに大きな違いがあるようだ。ジョン・ブラッドショーは、彼の著作である”Cat Sense(残念ながら訳書はない。私も中身までは読んでいない)の中で、イヌは、人間と自分以外のイヌとを区別しているようだが、ネコはその区別ができておらず、人間を単にでかいのろまな同類という程度の認識しかしていないのではないだろうかと記している。ただ、自分よりはバカだとまでは思っていないようだが。最近、私は、私の大学にいるネコを手なづけた。彼のほうでは、自分の背中を時々掻いてくれるでかいのろまな奴を手下にしたと思っているかもしれない。下記の「市大猫」のツイッターによると、名前は「ハナ」ちゃんだろうか。では、彼ではなく、彼女なのかもしれない。
https://twitter.com/hashtag/%E5%B8%82%E5%A4%A7%E7%8C%AB

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