現在、地球温暖化の問題は人類の大きな課題だろうと思う。単に暖かくなるだけではなく、台風が巨大になり、風や雨・乾燥がより極端になるという気候的変化は、世界のいたるところで災害を引き起こしている。農業や漁業へも大きな影響を与え、地球全体の食糧問題も起き始めている。
このような状況で、トランプ新大統領は、気候変動対策の枠組みであるパリ協定からの離脱を大統領令によって命じた。米国独自で二酸化炭素排出の抑制などの温暖化対策を行っていくならまだしも、どうやら温暖化対策とは無縁の政策を実施しそうな勢いである。”Drill, drill, drill” (化石燃料を掘って掘って掘りまくれ) というメッセージには戦慄を覚える。米国においても、ハリケーンの強大化やカリフォルニアの乾燥による山火事など、温暖化の影響と考えられる災害が起きているが、それに対して不安はないのだろうか。概して、見えない環境破壊については対処が遅れがちになりやすいが、温暖化については明確に顕現しているはすだ。
トランプ自身は商売人である。温暖化による少々の被害よりは、化石燃料を掘って売る方が儲かると考えているのかもしれない。しかし、問題はトランプの支持者たちである。彼らは、どうやら地球温暖化は存在しない、あるいはあったとしてもそれは二酸化炭素の高濃度化の影響ではないと本気で信じているようなのだ。概して、IQが高い人ほど、あるいは分析的・論理的思考を行う人ほど認知的バイアスを抑制でき、科学的な思考を行う。バイアスを生み出す直感を、知能や分析的・論理的思考が制御できるからである。実際、ペニークック他 (Pennycook, Bago, & McPhetres, 2023 JEPGeneral) の研究は、認知的複雑性 (IQや分析的・論理的思考に相当) とさまざまな科学的思考の関係をみたもので、たとえばワクチンについては、認知的複雑性が高いほど科学的判断が行われている。つまり、ワクチンに関するバイアスを受けにくくなっているわけだ。
ところが、彼らの研究の結果で特異的なのは、地球温暖化に対する態度である。米国の民主党支持者は、認知的複雑性が高いほど地球温暖化は科学的に納得できると判断したが、共和党支持者
(トランプ支持者) は、認知的複雑性が高いほど地球温暖化は非科学的と判断したわけである。すなわち、民主党支持者は地球温暖化が生じているということを確信するために自分の知能を使用し、一方共和党支持者は地球温暖化がフェイクであることを示すために自分の知能を使用したというわけである。推論が地球温暖化の否定や肯定などの自分の特定の目標のために用いられるということで、このような現象は動機づけられた推論と呼ばれている。温暖化についてどちらが正しいのかは、厳密にはわからない。しかし、他の多くの国々においては、分析的・論理的に思考する人ほど温暖化と二酸化炭素について敏感になっており、米国の共和党支持者における傾向は特異的なのである。
知能が高くなり、分析的・論理的に思考ができるようになれば、相手の立場をより理解できるようになるのでこのような分断は小さくなっていくはずだった。そして実際、第二次世界大戦以降に見られる人権意識の高揚はこのような知的向上によって起きてきたと推定できる。ところがここに来て、せっかく高くなった知能や思考が、マイサイドの目標のために使用されている。この政治的分断はますます進むのだろうか。トランプは二酸化炭素削減に取り組むつもりは全くないのだろうか。全世界で温暖化に伴う災害が激しくなる未来は、決して見たくない。
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