2022年4月5日火曜日

独裁者と膨張原理

  ロシア軍のウクライナ侵攻開始から約1か月半が経とうとしている。予想外のウクライナの善戦で、ゼレンスキー大統領の支持率が大幅に上昇しているのはわかるが、苦戦で多くのロシア兵を死なせているプーチン大統領でさえも支持率は上がっている。ロシアの場合は、情報統制やプロパガンダ等の結果でもあるとはいえ、概して戦争は、為政者の支持率を上昇させるようだ。外敵がいると集団の結束が高まるという集団力学の初歩的な原理が具現しただけなのだろうが、こうなると、支持率を上げたい為政者には戦争という誘惑が常に付きまとうというのは怖いことだ。このブログで、21世紀における戦争の終結要因として、国家間の経済的相互依存の高まりをなんども挙げてきているが、プーチンの場合は、支持率への誘惑がそれを上回ったのかもしれない。

 ロシアの場合、司馬遼太郎が『ロシアについて』で述べているが、国が膨張原理によって成立というケースにあてはまる。いわゆる「タタールの軛」と呼ばれるモンゴル支配から解放されたヨーロッパの中で遅れた国が、領土欲というよりも、パリあたりにもっていけば高く売れる黒貂の毛皮を求めて東へ東へと向かい、その結果の膨張である。この膨張が独裁者を生みやすい国の体質になっているのか、独裁者が膨張を求めるのか、そのあたりの因果関係は難しい。しかし、ソビエト連邦の多くの共和国が独立したあと、プーチンがその再度の栄光を夢見て膨張を求めた結果が、南オセチアやクリミヤ半島の占拠であり、その膨張のモーメンタムが今回のウクライナ侵攻に結びついたのだろう。独裁者には、国民の支持を得るために、膨張が宿命づけられているように思える。

 中国も、内モンゴル、ウイグル、チベットに侵攻して膨張してきた。中国は、清の乾隆帝の時代に最大の版図を得ており、その中にはモンゴル、ウイグル、チベットが含まれ、さらにベトナムや李氏朝鮮が朝貢国になっていた。清の滅亡とともに、チベットやウイグルは一時的に独立したが、後に人民解放軍によって接収されてしまい、現在に至っている。プーチンにとっての栄光がソビエト連邦の領土回復なら、習近平にとっての栄光は乾隆帝の最大版図や朝貢国の存在で、それに加えてさらなる膨張が独裁の維持に必要なのかもしれない。

 では日本の場合はどうだろうか。明治新政府ができて、琉球や蝦夷地への膨張と独裁から、朝鮮半島、満州国、日中戦争や太平洋戦争へとつながってきたのだろうか。しかし日本にとっては、この膨張の代償があまりにも大きかったために、その後は幸い独裁がない。

 ここまで来ると、列強の帝国主義と独裁の関係も考察してみたくなる。帝国主義の中から民主主義国家が生まれたのが例外なのか、英仏などの帝国主義とロシア的膨張とは質が違うのかなど、興味は尽きない。しかし、この議論は専門家に任せよう。素人の私には手に余る。

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