「スロー」と「ファスト」の重要な区分は、前者の判断が熟慮的で後者の判断が直感的というものであり、前回の記事で、熟慮が好まれることもあれば、直感が好まれることもあるという例をあげた。この記事では、子どもの発言について、「スロー」と「ファスト」の枠組みで取り上げてみたい。
現在、地球温暖化が加速化されており、二酸化炭素ガス等の排出の影響が大きいと推定されている。この問題に、先進産業国が真剣に取り組んでいないと、スウェーデンの16歳の環境活動家、グレタ・トゥンベリさんが、9月の国連の気候行動サミットにおいて涙ながらに温暖化対策の強化を各国首脳に訴えた。温暖化の問題について1997年に京都議定書が採択され、それ以降20年以上経つが、各国の動きは概して鈍い。この鈍さの理由は、二酸化炭素ガスがこの温暖化の原因であるとする確実に科学的な証拠がないことや、産業や経済の発展にストップをかけるような対策をためらっていることがあるだろう。しかし、グレタさんは、この温暖化にストップをかけないと子どもたちのかけがえのない未来が奪われてしまうと訴えているのである。
私はこの訴えに大きく賛同するが、概して大人の政治家は冷淡なようである。たとえば、米国のトランプ政権は11月4日、地球温暖化対策の国際的枠組みであるパリ協定からの離脱を国連に通告したと発表した。通告から1年後に脱退が完了する。それだけではない。情けないのは、日本の政治家や文化人とされている人たちの「子どもを使ったプロパガンダだ」とか「誰が後ろで糸をひいているのか」などの反応である。仮に糸を引いている人間がいるのだとしても、その人間の意見として評価すればよいだけである。
明確な二分法はあてはまらないが、概して、子どもの判断は「ファスト」である。その理由は、認知機能は、直感的なものから熟慮的な方向に、つまり「ファスト」を「スロー」が制御できる方向に発達すると想定されているので、子どもの主張は直感のウェイトが高いとみなされるわけである。スウェーデンにおける温暖化の影響について私はあまり詳しくはないが、気候変動が激しくなったり、氷河が溶けたり、あるいはこれまで生息できていなかった害虫が発見されたりするのを目の当たりにすれば、そこから「これではいけない」という直感的判断が生まれるのは当然だろう。日本人だって、猛暑だけではなく、とてつもなく激しい台風とそれに伴う想定外の雨量から、直感的な恐怖を感じ取っている人は多いのではないだろうか。
熟慮的判断は、直感的判断に加えていろいろな要因を追加する。二酸化炭素ガスの排出を抑制するためには化石燃料の使用を控えねばならないが、それが産業や経済、さらには科学の発展に及ぼす負の影響も考慮するだろう。影響ありとする科学的証拠もなしとする科学的証拠も吟味する。
しかし、それでは加速的な温暖化に対応が遅くなる可能性があり、ここは迅速な直感が重要である。さらに、直感は熟慮よりも人々の感情に訴えて、動かす力がある。温暖化をストップさせるためにも、あるいは温暖化に対する農業や漁業の迅速な対応のためにも、私たちは彼女の直感に動かされなければならないのではないだろうか。