2025年4月5日土曜日

“Human and Artificial Rationalities. Advances in Cognition, Computation, and Consciousness”が出版されました

  2022年からパリで行われているHuman and Artificial Rationalityのカンファレンスだが、23年分から出版を開始し、20249月に行われた分が3月末に出版された。昨年は、私はパリでのカンファレンスに参加していないので、私が筆頭著者である章は含まれていないが、とりあえず編集に加わり、編者に名を連ねさせていただいている。本書は、Artificial Reasoning and ModelsArtificial Intelligence and CognitionRationality and Dual ProcessMoral ReasoningEducationReasoning and Special NeedsExperimental Procedures in Cognitionの部門に分類され、合理性を論ずるもの、人工知能およびそれとのかかわり、および教育への応用などが論じされている。

 私が筆頭著者となっている論文は本書に含まれていないが、Maxime Bourlierが筆頭となっている論文の著者の中に入れていただいている。この研究は、モラル判断のテーマとして有名になった、トロッコ問題と歩道橋問題を材料として用いている。トロッコ問題とは、進行中のトロッコが5人の作業員に向かって進んでおり、このままでは5名が死ぬが、レバーによって進行方向を切り替えれば死者は1人だけになるという設定で、レバーを引くか否かという問題である。5人を助けるために1人を犠牲にするか、何もしないで5人を犠牲にするかという倫理的ジレンマ状況を提供しているわけである。この状況だと、レバーを引いて5名の犠牲よりも犠牲を1名だけにする功利論的な選択肢が好まれる。ところが、歩道橋問題では、歩道橋の上の太った人を線路に突き落としてトロッコを止めるという方法で5名を助けるかどうかという判断になる。この場合は、突き落とすという行為に抵抗感があり、この功利論的選択が激減する。つまり、「突き落としてはいけない、これは殺人だ」という義務論的選択が増加するわけである。

 なぜ歩道橋問題になると、功利論的選択が減少して義務論的選択が増加するのかという内容効果には、いくつかの説明が提唱されているが、最も重要な要因は、歩道橋問題ではいくら5名を救うためであっても殺人自体が目標になっているという点だろう。Bourlierが注目したのは、その行為で責任を取らされるか否かである。そこで、責任を取らされないように「1名を犠牲にする許可を得る」か否かを独立変数として操作した。その結果、歩道橋条件では、「許可を得る」ことによって、太った人を突き落とすという功利論的選択が増加したのである。なお、トロッコ条件では、最初から功利論的選択が多く、許可の効果が現れなかったが、これは天井効果であろう。許可を得るということは罰せられないということで、このことが、内容効果の根本的要因なのかどうかはわからない。しかし少なくともこの効果の生起に寄与しているということがわかった。

 このカンファレンスおよび論文集の出版は、2025年分も継続される。2025年も9月にパリでカンファレンスが開催される予定だが、今年は私も発表および論文投稿の予定である。