あまり期待されていなかった森保ジャパンが、コスタリカに敗れたものの、ドイツとスペインに奇跡的に勝ち、決勝トーナメント進出を決めた。日本では大きな盛り上がりを見せているし、サッカー好きの私としては、毎日のように楽しんできた。
ところが、英国のサッカー好きの友人と研究のことでメールを交わしたときに、ワールドカップの話題を振ったところ、彼は、今回は全く試合を見ていないとのことだった。その理由は、カタールの人権問題である。日本でも、すでに新聞記事などで、外国人労働者に対する人権侵害や性的少数者への差別が問題になっているが、残念ながらあまり大きく取り上げられていない。また、ウィキペディアでも英語版はあるが、日本語版はまだない。
人権に問題を抱えている国や、独裁などの政治的問題がある国が、国威掲揚のための国際大会を開くことはよくある。スポーツの巨大イベントを開催することで、社会が抱える問題を洗い流して大衆の関心を遠ざけるという意味で、近年、これはスポーツウォッシングと呼ばれている。今回のカタール大会以外に、2018年のロシアワールドカップや2022年の北京の冬季オリンピックが該当する。
カタールワールドカップについて、残念ながら、日本で真剣に取り上げられている印象はない。NHKのクローズアップ現代あたりで報道すれば、大きなインパクトがあると思う。しかし、サッカー協会会長の田嶋幸三氏の「今はとりあげるべきではない」という発言にみられるように、情けないくらい及び腰である。盛り上がりに水を差したくない気持ちはわからないではないが、この発言が日本の関係者やメディアの総意なのだろう。
一番大きな問題は、日本のリベラルを自称する人たちが、他国の人権問題への不干渉を貫いている点である。とくに中国の人権問題について、最近になってようやく非難する発言が出るようになったが、これまでは、異常と思えるくらい言及が少なかった。第二次世界大戦以降、中国などを批判するのは嫌韓・嫌中の右翼であり、自分たちは彼らとは違うという態度を示さなければいけないという枠にとらわれているからであろう。先日、あるTV番組で、北朝鮮のミサイル問題が取り上げられていたとき、谷口真由美氏が日本で朝鮮・韓国の人々へのヘイトが起きていると発言して呆れ返られていたが、私も「オイオイ、そっちへ行くのか」と情けなかった。ミサイル問題と関連させるならば、北朝鮮における極めて大きな人権問題に言及すべきだろう。
私自身は、人権問題に声を上げると同時に、試合は試合で楽しめばよいのではとは思うが、この態度ではスポーツウォッシングされていることになるのだろうか。とりあえず、日本には、次戦のクロアチアにはぜひ勝ってほしい。