2017年11月19日日曜日

ホモ・サピエンスのアメリカ大陸への拡散―アメリカンエクスプレス?

 前回の記事で、南北アメリカにおける大型哺乳類の激減・絶滅に触れたので、南北アメリカへのホモ・サピエンスの拡散について考えてみたい。彼らは、145千年前に、当時陸橋となっていたベーリング海峡 (ベーリンジア) を渡り、今のアラスカにたどり着いたが、当初は分厚いコロンビア氷床が障害となってそれ以上南下することができなかった。最終氷期が徐々に緩み始めて氷床の中に回廊ができ、今の合衆国あたりに侵出したのが約1万3千年前で、その後、約千年で南アメリカの南端のパタゴニアにたどり着いたと考えられている。

 比較すると興味深いのが、約6万年前から5万年前にかけて起きた、アフリカからスンダランド (氷河期は東南アジアの島嶼部が大陸になっていた)を経てのオーストラリアへのホモ・サピエンスの拡散である。この拡散は、ユーラシア内部やヨーロッパへの拡散よりはるかに速く、シーショアエクスプレスと呼ばれている。おそらく比較的安全で食糧も豊富なインド洋の海岸に沿って拡散していったと思われる。

 ホモ・サピエンスの拡散は、マッチポンプのようなものらしい。つまり、気候が安定して食物が豊富になると人口が増えるが、寒冷や乾燥が続くとたちまち食糧不足になって、周辺に散るという形で拡散・移動していったようだ。それにしても、アメリカ大陸の北から南の拡散は、シーショアエクスプレスのオーストラリアへの拡散よりはるかに速く、これはアメリカンエクスプレスと呼んでもいいのではないかと思うのだが、残念ながら、「アメリカンエクスプレス」で検索してみても、そういう用語はないようだ (某クレジットカード以外にヒットするものはない)

 アメリカンエクスプレスの時代は、シーショアエクスプレスの時代よりもはるかに道具が進歩を遂げている。文化のビッグバンをへて、1万3千年ほど前からクローヴィス文化が北米で花開いたが、独特な樋状剥離が施された尖頭器を特徴としている。これを弓矢や投げやりにつけて、人間をほとんど恐れなかった大型哺乳類を獲物にしていったのだろう。北アメリカの、バイソンがたむろする草原に侵出してきた人々は、危険な動物も比較的少なく、ここはパラダイスではないかと思ったのではないだろうか。このような状況で、マンモス、マストドン、巨大ナマケモノ、巨大アルマジロ、サーベルタイガーが短期間に絶滅していったようだ。

 ここはもう食べるものがないと判断して南へ移動していった人々もあれば、仲間割れで「こんな奴らと一緒は嫌だ」と離反して移動していった人々もあるだろう。心理学の立場から想像するといろいろと楽しいが、おそらく彼らの人間関係も、現代の人間関係とそう変わることもなかったのではないだろうか。当時の人々は新天地に行けばまだ手つかずの獲物がいたが、現代では「辞めてやる!」と辞めてしまったあと、パラダイスを見つけるのはかなり困難である。

0 件のコメント:

コメントを投稿